日本銀行は3月16日、日本の決済システムを巡る動向などを整理した「決済システムレポート」を公表しました。
この決済システムレポートは、日本の決済システムを巡る動きを整理するとともに、決済システムの安全性・効率性の向上に向けた日本銀行ならびに関係機関の取組みを紹介することを目的として、日本銀行が2~3年に1回を目途に公表しているもの。前回は、2013年10月にされています。
今回のレポートでは、日銀システムや全銀システム、証券決済システムなどの最新動向や決済システムの安全性・効率性向上のための取組みの紹介のほか、FinTechやブロックチェーン(分散型台帳)に関する動向についても整理されています。
現状の日本の決済システムに対する評価としては、世界的にみてもトップレベルの安全性が確保されているほか、決済サービスの高度化を図っていく取組みが、大口・小口決済の両面において、幅広い主体によって進められているとしています。
また、中長期的な展望として日本銀行は、決済システムの安全性をしっかり確保し、向上させていく取組みを続けていくほか、効率性の向上についても、経済厚生の向上や経済の持続的発展に寄与し得るものであり、中央銀行としての立場から積極的な貢献を行っていくとしています。
以下に、日本銀行のニュースリリースを引用します。
決済システムレポート(2016年3月)
日本銀行
2016年3月16日
エグゼクティブ・サマリー ―わが国決済システムの総合評価―
経済活動のグローバル化や情報技術革新が一段と進展するもとで、わが国の決済システムを取り巻く環境には、近年、さまざまな変化がみられている。
決済の需要面では、企業活動の国際化などに伴い、国境や時差を超える取引が一段と活発に行われるようになっている。人々のライフスタイルも多様化し、Eコマースなどの新しいビジネスも発展している。これらを背景に、グローバル企業の資金管理を支援する決済手段や、夜間や休日にも利用できる決済手段、低コストの国際送金など、多様な決済サービスへのニーズが強まっている。
また供給面では、情報技術革新が一段と進むもとで、コンピュータの情報処理能力も向上を続けている。この間、インターネットやモバイル端末も内外で急速に普及している。これらを背景に、決済サービスに応用可能なテクノロジーや、人々が決済サービスにアクセス可能なツールや媒体も拡がりをみせている。
このような環境変化の中にあって、わが国の決済システムの安全性は、全体として確保されている。また、新しい情報技術も取り込みながら、顧客ニーズを捉えて多様かつ革新的な決済サービスの提供を図るなど、決済サービスを高度化させ、決済の効率性をさらに高めていく取組みも、大口・小口決済の両面で進められている。
まず大口決済の面では、日本銀行は、わが国の基幹的な決済システムである日銀ネットを運営しており、当座預金決済で約136兆円、国債決済で約102兆円の決済を日々円滑に処理している(2015年の1営業日平均)。そのうえで、昨年10月には新しい日銀ネットが全面稼動を開始した。新しい日銀ネットは、最新の情報処理技術を取り込んだ、利用者ニーズの変化などに柔軟に対応し得るものとなっており、アクセス利便性の向上も図られている。本年2月には、21時までの稼動時間の拡大も実現されている。新日銀ネットは、民間金融機関などによる決済の安全性や効率性を高めていく取組みを、インフラ面から強くサポートするものと考えられる。
また、証券決済について、決済リスク削減の観点から、国債や株式等の決済期間を短縮する取組みが、関係者の間で進められている。
この間、小口決済についても、週末や夜間も含め銀行送金の即時着金を可能とする取組みが進められているほか、決済に付随する情報を活用し、これを企業財務の高度化や事務効率化につなげていく「金融EDI」の検討などの動きもみられている。
さらに最近では、”FinTech”と呼ばれる、情報技術を活用した新しい金融サービスを提供する動きも活発化している。この中でも、決済に関連するイノベーションの動きは顕著であり、例えば、夜間や週末も含めモバイル端末などから利用できるEコマースと相性の良い決済手段や、小額の海外送金手段を低コストで提供しようとする動きなどがみられている。このような決済サービスの提供においては、金融機関に加え、情報技術などに強みを持つノンバンク企業など、多様な主体が関わるようになっていることも特徴的である。また、近年登場している「デジタル通貨」の技術基盤である「分散型元帳」については、特定の主体に依存せずに権利移転の管理などを行い得る技術として、幅広い応用が可能ではないかといった関心が高まっている。
日本銀行は、決済システムの安全性および効率性の維持・向上に、中央銀行として強くコミットしている。この観点から日本銀行は、各国の金融市場インフラが満たすべき国際基準として、2012年に公表された「金融市場インフラのための原則」(FMI原則)も踏まえながら、各種決済システムへのオーバーサイト活動を行っている。また、わが国を含む各国の決済システムのFMI原則の遵守状況については、国際的な評価も行われている。これらの結果を踏まえても、わが国の決済システムは、全体として安全性が確保されており、FMI原則も満たしていると評価できる。
経済社会を支えるインフラとしての決済システムの重要性を踏まえれば、日本銀行を含め決済インフラの提供に関わる主体には、十分な業務継続体制が求められる。日本銀行は、東日本大震災等の経験や被災想定の見直しなども踏まえながら、業務継続体制の点検や各種の訓練などを通じて、自らの被災対応力の強化に努めている。あわせて、金融機関や民間の決済システムと、業務継続体制に関する対話も行っている。こうしたもとで、金融機関や民間決済システムによる、業務継続体制の強化に向けた取組みも進められており、このような取組みは、わが国決済システム全体の頑健性強化に資することが期待される。
日本銀行は、中央銀行として基幹的な決済インフラである日銀ネットを提供しており、金融環境の変化等を踏まえ、将来の発展性を一層確保する必要から、新日銀ネットを構築した。また、各種決済システムへのオーバーサイトや関係者との対話を通じて、わが国決済システムの安全性・効率性の向上をサポートしている。さらに、決済のイノベーションなどの動きのもと、決済インフラの提供に関わる主体も多様化し、サイバー攻撃など新たな脅威への対応も一段と重要になっている中にあって、日本銀行は、決済サービスの高度化や安全性確保などに向けた関係者間の協調や協力を促す「触媒」としての役割も、積極的に果たしていきたいと考えている。この間、先月(2016年2月)から開始された日本銀行当座預金へのマイナス金利の適用が決済実務等に及ぼす影響についても、注意深くみていく。
これらの取組みを通じて、日本銀行は、わが国決済システムの安全性や効率性の向上に中央銀行として最大限の貢献を果たし、金融市場の発展や経済の持続的成長を、決済インフラの面からもしっかりと支えていく所存である。
(以下、省略)